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兄がインサイダー取引で捕まった。
その報は母からもたらされた。

正確には在宅起訴されたのは先週の話らしい。

兄は鳳証券の課長職にありながら、複数の個人投資家に株式公開買い付けの情報を流し、売り抜け利益をだした投資家たちから多額の報酬を得ていた。

起訴に伴い、会社は懲戒解雇。
兄は、ここまでの出来事を私に伝えないように口止めしたそうだ。

しかし、母は私に電話をしてきた。
週が明け、兄が自殺未遂を図ったからだ。

長い間、舞台の主役として王道を歩いてきた兄には、犯罪と失脚という事実が耐えられなかったのかもしれない。
ビルの5階から飛び降りたのだそうだ。

兄にとって不幸なことは、死にきれなかったということ。
ビルの横の生垣がクッションになり、兄は両足と骨盤の骨折を負ったものの、命に別状はなかった。

私が都内の病院に駆け付けた時には、まだ手術室の入口にはランプが点き、不安げな顔の両親がベンチで待っていた。
夕刻には無事に手術が終わる。

しかし、兄は私には会わないと言いだした。両親すらほとんど口を聞かずに病室から追い出してしまう。
一体全体、どうなっているのかわからない。もともとエキセントリックではあったけれど、ついに兄はおかしくなってしまったのだろうか。