以前は身体をつなぐだけで充分だった。寂しさに彼の熱情が染み入って、私の虚ろな心身はこのうえもなく満たされた。

だけど、今は望んでしまっている。

愛してほしい。

そばにいたい。

誰にも渡したくない。

5つも年下で、卑怯な手口で私を貶めた彼に、私は恋をしていた。

未來さんに対して感じていたような優しい親愛ではない。もっと激しい焦燥を込めて、彼がほしいと思う。
切実な欲求だ。

それは、彼の言うところの『劣情』も含まれているのだろう。



私は葦原くんの部屋のソファにひざを抱えて座る。
窓から駅とは反対側の住宅地の明かりを眺めると、ひどく寄る辺ない気持ちになった。

最近、兄からの連絡は益々頻繁になった。
メールや電話はもちろん、自宅マンションのポストには直接投函したと思われる手紙が入っている。

『あの男と別れろ』
『実家に戻ってこい』
『沙都子を守れるのは俺だけだ』

手紙に殴り書かれた兄の執念が怖かった。
兄の元に戻れば、確実に籠の鳥になるだろう。凌辱されることも、すでに不思議でもなく想像できる。