「実は殴られておこうと思いました。傷害罪での立件を視野に」


なるほど、それであんなに挑発的なことを言ったのだ。
でも、そんな無茶してほしくない。
私は向かい合って、彼の両腕に手を添えた。


「やめて、葦原くんが痛い想いをするのは嫌」


「あなたに何かあったらもっと痛い」


葦原くんは私の頬に手を添えた。まるでキスの前みたいに。
そんな風に優しくされたらつらい。
どうか、そこまで私に構わないで。気付かせないで、奥底にすでに根を張った想いに。


「俺のものは全力で守ります。あなたの望む望まないに関わらず、必ずね」


そう宣言すると、葦原くんは私の手を引き、改札に入る。
自分の目的地に向かう前に私を客先に送るためだった。