私はとっさに葦原くんの前で両手を広げた。とうせんぼの格好になり、兄を睨みつける。
そして、思いのほか大きな声で言い放った。


「私の大事な人なの!何かしたら許さない。30代の妹の恋愛にまで口を突っ込んでこないで」


改札前での出来事にしては、結構派手なものになってしまった。

通り過ぎる乗降客が何事かと横目で見ていく。
それでも、私はとうせんぼの両腕を降ろさなかった。

やがて兄は舌打ちをし、顔をそむけた。


「また別な機会に話そう。今度はその男抜きで」


言うだけ言って、兄は改札を抜けホームへのエスカレーターに向かって歩いて行く。

私は両手を降ろし、まだどかどかと鳴る心臓を押さえていた。

初めてだ。
兄に面と向かって拒否を示したのは。


葦原くんが私の耳元にささやく。


「あの人がまた何か言ってきたら言ってください。勝手に会うの禁止」


「うん……完全に巻き込んだね。本当にごめん」