「たいしたことはされなかった。少し身体を触られただけ。葦原くんと初めてした時、私、処女だったでしょ?」


「それは……俺がわかってますけど、そういう問題でもないですよ。あの男……沙都子さんに……」


葦原くんが憎々し気につぶやく。
私はなだめようと首を振った。


「さすがに怖くなって、すぐに大学の寮に入ったわ。それから兄とはずっと距離を置いてるんだけど、いつまでも執着がおさまらなくて……。最近は、私に男性の影を感じるせいか、行動がひどくなっているような気がする」


「もう、気にしなくていいです。これからは俺が間に入ります」


「葦原くん、そんなこと……」


私は慌てた。結果、彼を巻き込んでいるけれど、それは本意ではない。
兄は証券会社では役付き。社会的地位は私や葦原くんより上だ。
彼が矢面に立つことで、何かしてきたらと思うとぞっとする。


「俺とあなたは付き合ってる。そういうことになってます。彼女の問題に彼氏が出るのは間違いではないでしょう」


「大丈夫、うまく距離を取っておくから」


「俺が嫌なんですよ!あなたが何かされたらと考えながら過ごすのは」


葦原くんは少し強い口調で言ってから、そんな自分に驚いたように声のトーンを落とした。


「俺の能力は知ってるでしょう。他人に好かれることにかけては自信があります」