「私っていう存在は……兄のナルシズムのシンボルなの。私と兄、顔は似てるのよ。性格も出来も正反対だけど。兄は、私を征服したいの。葦原くんとは違った意味で」


「あなたを抱くことで、自己愛を成就させたいってことですか?」


「簡単に言えば、そうじゃないかな。他に理由がないものね。兄は本当に出来がいいの。両親の期待100パーセントで出来た無敵の存在なの。兄は私を女として見てる。一対の雌雄だと思ってる。私を捕食することで真の意味で完全になれると夢想してるのよ」


「宗教的ですね。気味が悪い思想だ。兄妹の結びつきの深さは古来多くの逸話がありますが、英雄思考の人間にはあり得そうな話です」


葦原くんは吐き捨てるように言って、それからはっとしてこちらを見る。


「もしかして、今まで何かされたことがあるんですか?」


葦原くんは私を心配しているのだ。
そう気づき、私は途端に胸が熱くなった。こんなにあからさまに心配を見せてくれるなんて初めてだ。


「大学生のとき。一回、押し倒されたことがあるの」


迷ったけれど、事実を言い切った。
葦原くんが唇をぎりっと噛みしめる。私は慌てて続ける。