「……今日はちょっと、変な感覚で。……帰って、沙都子さんが作ってくれた夕食を……食べたいんです。一緒に」


「葦原くん……」


「とにかく!命令ですから、すぐに俺の部屋に戻ってください」


わざと強い口調で言って、葦原くんは私を抱きかかえるように立たせた。
涙でぐしゃぐしゃな私の顔を親指でごしごしこする。


「葦原くん……痛い……」


「目も鼻も取れやしませんから大丈夫ですよ」


「でも……こすれて痛い」


「あなた程度の女って……あの言葉だけ撤回します。沙都子さんは全部綺麗だ。俺なんかに関わらなきゃ、きっともっと幸せになれるのに」


自嘲的に言って、葦原くんは私の顔から手を離した。
私はこすられてヒリヒリする頬を撫で、何も言わなかった。

彼の拒絶の言葉の力はものすごく、私はまだ竦んでいた。
しかし、その後の告白で心は大きく動いていた。

葦原くんは私の腰を抱き寄せ、寄り添って歩く。
何度も私の髪に口づける。そんな愛おしそうな素振りに、彼が悔やんでいることが伝わってくる。
私を傷つけたことを、彼は初めて後悔しているようだった。

葦原くんの腕はあたたかく、私の縮み上がった身体はやがてゆるやかにほどけていった。