「そんな格好で出ていくなんて馬鹿か、あなたは」


葦原くんは私を離さず、背後から髪に顔を埋める。
吐息と、響く声に全身が痛くてちぎれそうだ。


「離してください。本当に、お願い。……もう、今日は帰らせて。許して」


「駄目だ、許さない。あなたは帰って、俺と寝るんです」


腕から抜け出そうともがくけれど果たせない。

なんて、嫌な男だろう。
これ以上、貶めるのはやめてほしい。


「イヤ……イヤ……、あし……はらく……の顔、見ていたくない」


情けなくも私は泣き崩れてしまった。
私を馬鹿にし、傷つけ、抱きしめる男の腕から滑り落ち、みっともなく座り込んでしまう。

消えてしまいたい。

ドヤ顔で夕食を作って、本心を暴かれて拒絶されて。
それでもなお、解放してもらえない我が身が哀れだった。

帰宅する人たちが私と葦原くんのことをじろじろと見ている。だけど、私は泣き止めなかった。うずくまり、肩を震わせ、のばされた葦原くんの手を拒否する。

今日は許してほしい。
こんな辱めを受けてなお、彼に身体を求められるのはつらい。

しばらく、葦原くんは立ち竦み、私のことを見下ろしていた。
彼にとっては、コントロールに失敗している状況だ。
きっと、よりいっそう苛立っているに違いない。

そうだ、彼が怒りでここを去るのを待とう。