幼い私は、彼に想われたかった。強く望まれたかった。
身体だけでなく、心も。

支配ではなく、欲してほしかった。

馬鹿だ。
私は、彼に愛されたいと願ってしまった。

忘れよう。
一瞬の気の迷いだ。

私は葦原五弦なんて大嫌い。

未來さんへの初恋を弄び、処女を奪い、今も支配するあの男が大嫌い。

愛されたいなんて思っていない。
愛したいだなんて望んでいない。

私はひとりでいい。

ひとりで生きていける。

誰かと通じ合えるなんて幻想だ。
私は誰とも交わらない。
この宇宙にたったひとりで浮かんでいたい。
誰にも傷つけられず、誰も傷つけない場所へ行きたい。




「沙都子さんッ!!」


タワーマンションから出て、プラザモールの前を歩く私は、だしぬけに背後から抱きしめられた。

葦原くんだ。
なぜ、追いかけてきたのだろう。
私は声を振り絞る。


「離して……」