「彼女ヅラするな」


ばっさりと切れ味鋭く彼のナイフが振り下ろされた。
そんな感覚。

凍り付く私を葦原くんがねめつける。
その瞳にあるのは苛立ちと、まぎれもない怒りだった。


「あなたに望んだことはセックスだけです。いつから、あなたは俺の女房になったんですか?気味が悪い。表向き恋人になったもんだから、勘違いしましたか?」


「や……あの……」


「俺に愛されたくなってしまったんですか?恋愛経験がないと気持ちが初心でいけませんね。手料理をふるまうなんて反吐の出そうな束縛。最高に不快ですよ、あなた程度の女に彼女ヅラされたことが」


ごめんなさい。

そう口にしたけれど、ささやき声より小さかった。
それ以上、声が出なかった。

ただ心臓がものすごい勢いで鳴り響いていた。

怒らせた。
葦原くんの気分を害してしまった。