「九重さん?」


佐賀さんに声をかけられ、私ははっと顔をあげた。


「うん、えっと。なんでもない。今夜、何作ろうかなって考えてた」


「おわ!お熱うございますなぁ!」


佐賀さんをごまかし、午後の仕事にとりかかった私だったけれど、頭の中では自分の言葉がまわっていた。

『今夜、何作ろうかな』

……ごはん、本当に作ってみようかな。

葦原くん、今夜は早く帰ってくるみたいだし。

偏った食事ばかりじゃ、今はよくても30代に入ったら生活習慣病予備軍。
たまにはインスタントや外食以外も口にすべきだ。

葦原くんは自分の魅力に絶対的な自信を持っているけれど、不健康に太ってしまったら求心力は半減するに違いない。

……って大袈裟だ。
たった一回、私の気まぐれでごはんを作ってあげるだけじゃない。

たまにはサービスしてあげよう。
忠実な犬として、このくらいのことなら。