「いやいや、葦原って子犬系じゃないですか。二人っきりのときはさぞ甘えられちゃってるんじゃないですか?」


逆だ。
ふたりきりになれば、彼は主人、私が犬だ。

そんなことは言えないので、私は曖昧に笑う。


「葦原って母性本能をくすぐるタイプなのかな。同期にはわかんないですけどね。
あ、気ぃ悪くしないでくださいね!ほら、前いた笠井さんなんか、葦原が手料理に憧れてるなんて話を聞きつけて『作ってあげる!!』ってすんごいアピールしてましたよ」


「へえ」


手料理。
そんなものに憧れていると言ったなら、いよいよ彼のサービストークというかテクニックだろう。

ふと、彼の食生活を思いやる。
彼の部屋のキッチンはほとんど使われていない。自炊をしている様子はない。
部屋にある食料は菓子パンやカップ麺ばかり。外で食べるときは、いつも若者らしく大盛だ。

お母さんとはもう随分会っていないみたい。
今までの彼女で、彼にごはんを作ってあげた人はいたんだろうか。


「でも、葦原は裏で九重さんに手料理作ってもらいまくりだったんでしょ?あいつの営業トーク、タチ悪いですよね~」


確かに彼の営業トークはタチが悪いけれど、私は葦原くんに手料理をふるまったことなんてない。