「沙都子さん、お昼に行きましょう」


その日の昼休み、葦原くんは無邪気に私を誘いにきた。
私は困惑し、彼を見上げる。
笠井さんは早退し、彼女と仲良しの一派がデスクの隣島から、私たちを射抜くように見つめているのだ。

それらの視線すらスルーできるのは、葦原くんが無邪気で人気者の後輩男子の仮面をかぶっているからだろう。


「葦原さ、公になった途端、九重さんにべったりってどうなのよ」


佐賀さんが私の横から同期をたしなめる。いつも空気を読まない彼女すら心配するのが、今の私たちの置かれた状況なのだ。
当の葦原くんはなんでもなさそうに答える。


「なんで?いいだろ。今まで心配だったんだよ、沙都子さんに他の男がちょっかいださないか。これで堂々と彼氏面できるんだからさ」


「子どもか!九重さん、本当にこんなヤツでいいんですか?っていうか、なんでもっと早く教えてくれなかったんですか?水くさい!」


佐賀さんに言われて、私はいっそう困る。