「あれ、みんなどうした?」


いつも一番最後に出社する社長がオフィスに現れ、場はわずかな沈黙の後、解散となった。
笠井さんは未來さんと同僚に連れられ、オフィスを出て行き、他部署の部長が状況を簡単に社長に報告したようだ。

私を抱きかかえかばっていた葦原くんは、そっと抱擁を解くと、頭をポンポンと“彼氏”らしく叩き、自分のデスクに去って行った。

たった今、修羅場を切り抜けたとは思えない落ち着きっぷりだった。

私の心臓はまだバクバクと痛いくらい鳴り響いている。

他人とこんないざこざになったのは初めてだ。
殴られるかもしれないと感じるのは怖いことだと知る。

私は唇を結び、デスクについた。