ブラウスの襟が引っ張られ、前方につんのめる。
必死に足で踏ん張るけれど、力があるほうではなく、体重も軽い。私は彼女に揺さぶられ、視界がガクガクとぶれた。


「私の気持ち知ってて、優越感に浸ってたんでしょ！バカにしてんじゃないわよ！ブスのババアのくせに！」


怒りに任せた笠井さんが叫び、平手を振り上げた。

殴られるかと思った。
しかし、即座に葦原くんが笠井さんの手を跳ね除け、私の身体を奪還すると隠すように抱き締めたのだ。


「やめなさい！」


今度こそ未來さんが飛んできた。他の男性社員も暴れる笠井さんを抑えようと近づく。女子なのを考慮して、結局未來さんが彼女の身体を押さえつけた。


「沙都子に何かしてどうなるの！子どもじゃないでしょう！」


「だってぇっ！あの女がぁっ！」


泣きながらもがく笠井さんを力で制して未來さんは冷静に言った。


「ここは会社。逆恨みで喧嘩する場じゃない。……ババアからの忠告よ」


彼女より年上の女子社員が笠井さんを白い目で見つめる。仲良しの同期や後輩も手出しできない。
男性社員は気まずく押し黙る。