「なっ……なんで……そんな素振り、会社では……」


笠井さんが狼狽と悲哀でどもりながら問う。
葦原くんはまるで空気にそぐわない爽やかな笑顔を見せて言った。


「やだなぁ、みんなの前でイチャイチャしないですよ。中学生じゃないんですから。それに、沙都子さんてば、自分が年上なのが恥ずかしいとか言うから黙ってたんです」


ね、沙都子さん、と葦原くんは私を覗き込む。私は戸惑いながらも、頷いた。
この場は彼に合わせよう。


「え?もしかして、今朝は俺たちのことが話題になってました?うわ、照れるなぁ!」


葦原くんはいつもの調子でおどけて見せて、それで空気はもとに戻るはずだった。現に場の空気は一瞬ほどけかけた。

しかし、ただひとり、彼に恋していた笠井さんは違った。

怒気と言えばいいだろうか。彼女は拳をぶるぶる震わせ、唇を噛み締めていた。
瞳の光がねじ曲がって乱反射しているようにも見える。

次の瞬間、笠井さんが怒鳴った。


「なんなのよ!このババア!」


彼女は怒声とともに私につかみかかってきたのだ。