絶句した。

まず浮かんだのは「どこで見られたんだろう」という想い。
見られるかもと考えたことはあった。だからこそ、私は気を付けていたつもりだけれど、葦原くんはさほど頓着している様子ではなかった。

次に言い訳を考える。
自然な言い訳はなんだろう。
どんなシーンを見られていたかにもよる。

だけど、口下手な私に必死な人をごまかすことなんかできるんだろうか。
笠井さんは鋭く吊り上がった瞳で私を睨んでいる。


「金曜、九重さんと葦原くんが駅の近くで合流して歩いていくのを見ました。入っていったのはライズのタワーマンション、葦原くんの自宅ですよね」


私は息を飲む。
その通りだ。間違いない。

間違いがあるとしたら、私たちの関係が恋人同士という点だ。

でも、社内の人たちには明朗快活な姿しか見せていない葦原五弦が、私を奴隷として征服したいがために関係を強いているなどと言ってどうする。
誰も信じないばかりか、私の妄言に聞こえるだろう。

何より、彼との関係をどんな形ですら口にしたくない私がいる。
自身の恥だからではない。

私は……この秘密をすでに大事に思い始めているからだ。