寂しそうではなかった。嘲るようでも、彼の言葉は意志的だった。

きっと、彼はずいぶん前からこうやって生きてきたんだろう。
お父さんを反面教師に、自身の才能で人から搾取し続ける。


きっと、彼の欲は私一人くらいじゃ足りない。
性的な意味合いでなく、私を踏みつけるのに慣れたら、別な方向で他者を征服し支配を拡大するのだろう。


猟奇的だ。

彼の欲望は歪んでいる。


そして、私は今、彼の支配下にありながら、一番近くに寄り添っている。



「葦原くん、コーヒーを飲みに行かない?」


私は前を向き、彼の顔を水に提案する。
葦原くんは少し怪訝そうに眉をひそめ、それから口を開いた。


「さっき飲んだばかりですよ」


「いいの。チェックアウトして電車に乗った後だから。……私の最寄駅か、二子玉川で」


二子玉川は私たちのオフィスと、彼の部屋がある。

私の遠回しの誘いは、勿体つけたわけではなく、本当に言い方がわからなかったのだ。
この後も一緒に過ごそう。
そんな簡単な誘いすら、方法がわからないのだ。