「あなたは俺のもの」


「せめて期限が欲しいな」


「心に期限はつけられません」


葦原くんはそう言うと、少し考えるように天を仰いだ。
昨夜、何度も私からキスした彼の首筋。喉仏がはっきり見える。


「たぶん、俺の征服欲、支配欲ってのは病気なんです。狂ってるんです」


なんとなく、彼の口調が変わった。
私は隣を歩きながら、微妙な変化を感じて口をつぐむ。
話を聞こうと思った。


「俺の人たらしの才能はたぶん親父譲りです。親父はわかってた。誰にどう微笑めば愛してもらえるか。親父の周りにはいつも人が絶えませんでした。人が良すぎて経営していた会社を潰してしまいましたがね」


あ。

私は気づいた。

今、彼は私に一歩侵入を許している。
心の内に。壁の中に。

近づいていいよ。
この話の意味はそれだ。

人とのコミュニケーションに鈍い私にもわかるのは、彼と私が今一番近い場所にいる人間だからかもしれない。