彼の身体は麻薬だ。

私の失恋の痛みを麻痺させ、この上もない絶頂へ連れて行ってくれる。
名前をささやかれ、優しく触れられ、束の間勘違いしそうになる。

愛されているのではないか。

そんな、浅ましい勘違い。

でも、勘違いでもいい。
恋を失い、愛し合う喜びも知らない私には、このごっこ遊びみたいな肉体の契約がたまらなく愛しい。

それは時に、葦原くんに対する憎悪を凌駕する。
私の圧政者だけが、私に束の間の安らぎをくれる。
とんだ矛盾だ。


「私のこと、もう解放してくれる?」


ノーと答えて。

そんな風に祈りながら口にする。

葦原くんは前を向いたまま答えた。


「絶対に駄目。まだ全然、沙都子さんに飽きてない」


「意地悪」


「その意地悪をされるのが、クセになってるのはあなたでしょう?」


まるで私の意思を汲み取ってくれたみたいな彼の答えに、知らず胸が高鳴る。

悪い男。
最低。

だけど、あなたの腕がまだ欲しい。