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翌朝はホテルのレストランで朝食をとった。
昨日のお式の関係者に会ったら……なんて心配は杞憂で、私と葦原くんが向かい合ってアメリカンブレックファーストをとる間、見知った人たちとは会わなかった。

葦原くんは、昨日着ていたスーツの上着だけを脱ぎ、私はホテル到着まで着ていたワンピーススタイル。

普段は夜景を映すだろうフレンチレストランの窓から眩しい日差しが差し込む。
なんだか、ものすごい非日常感。
どこか遠い異国で迎える朝のよう。

彼と真っ当にテーブルを囲んで食事するのが二度目だと気付いた。
ランチにイタリアンに連れて行かれ、この関係を脅迫されて以来だ。

彼の部屋に泊まったりすれば、食事の機会もありそうなものなのに、私たちはいつも互いの身体を貪ることばかりが目的だった。
せいぜい、彼の家に買い置きされていた菓子パンなんかを口にするだけ。

こうして向かい合っていると、私と彼が当たり前の恋人同士のように思えた。

嵐のような悲しみと喪失感は凪いでいた。

葦原くんの腕に抱かれ、快楽に溺れているうちに、私はものすごく平和な場所にたどり着いてしまったようだ。
こんなことってあるのだと驚く。


「沙都子さん」


「なに?」


不意に名前を呼ばれ顔をあげる。