「愚かしい人。結婚式まで来ておいて。あなたの方がよっぽどMだ」


葦原くんは私の手から飲みさしのペットボトルを取り上げた。
それを自分で口に含むと、次の瞬間、かがみこんで私に口づける。
口伝いで、流れ込んできた水を嚥下し、私は彼を見上げた。


「もっと泣いていてもいいんですよ。俺が全部わからなくしてあげるから」


彼の長い指が私の顎を持ち上げる。
私は情けなく微笑んで確認する。


「……こんな日まで、葦原くんに従わなきゃならないんだね」


「最初から計画してました。他のヤツを思って泣くあなたを抱きたかったので」


彼の征服欲はなくならない。
どんなに私が従う素振りを見せても、心まで虜囚にしないと気が済まないのかもしれない。

身体だけじゃ、納得してくれない。

それならいっそ、
心も明け渡してしまおうか。

あなたに夢中なの。
もう離さないで。
そうすがったら、あなたは私をどうする?