だからって部屋をとることないじゃない。

そんな反論をしかけてやめた。
妙にドキドキと胸が高鳴る私がいるからだ。

葦原くんが何をしようとしているかわかる。


「佐賀さんたちに連絡しないと」


「沙都子さんを連れて帰るって言ってあります」


「変な意味に取られない?」


「取られるかもしれませんね」


飄々と言って、葦原くんは進む。私は小走りで後に続く。
なんだか、すごく悪いことをしているみたいだ。

みんなの目を盗んで、二人で抜け出すなんて。


10階のツインルームに入ると、やっとふたりで息をついた。

お互いの顔を見合わせ、少しだけ頬を緩める。
私が感じていたささやかな背徳感を彼も感じていたのだろうか。いや、彼からしたら、この程度のこと、背徳でもなんでもないだろうな。

大嫌いなはずの葦原くんとふたりの空間になり、私は今日一番ほっとした。
まるで自宅に帰り着いたような気持ちだ。

葦原くんに手を引かれるままにベッドのひとつに腰かけた。
彼がペットボトルの水を手渡してくれる。