思わぬところで自分の名前を呼ばれ、私はいっぺんに狼狽した。

私に?
未來さんがブーケを?


「ほら、九重さん、早く早く!」


横の席の佐賀さんが私を立たせようとする。
ああ、このことだったんだ。未來さんと佐賀さんのコソコソ話は。

私にブーケを渡すため、離席させないようにしていたんだ。


私はよろめきながら、壇上に歩み寄る。
立ち上がった未來さんは私を見つめ、本当に美しく笑った。

女神だ。
私の最愛の女神がここにいる。

けして届かない聖域が目の前で微笑んでいる。


「沙都子、あんたは不器用で人見知りで心配。早く、心から愛する人を見つけて、幸せになってね」


それは、彼女からの恋の終わり宣言だった。

未來さんが私の恋心に気づいていたかと言ったら、それはノーだ。そんなに心の機微に敏感な人じゃない。

だけど、なんて的確に私の心を切り裂くのだろう。

見事だ。
私の恋は終わる。
それは、もうずっと納得していたこと。