あたしは哲生たちをやり過ごしてから、千尋のそばへ。

千尋はあたしが歩いて行くと、ゆっくり立ちあがり振り向く。

「なんだ、空野さん。どうしたの?」

あまり親しい間柄でもないからか、いつも苗字で呼ばれている。

「あ、あの」

「もう行かないと、授業に遅刻するよ」

やさしく口元に笑みを浮かべた千尋。

教科書を胸にかかえて歩き出そうとするのを、体でさえぎった。

「ねぇ、教えて。そこって、千尋さんの席?」

「……そうだけど?」

だれもがあたしにする困惑した目、千尋も同じようにあたしを見る。