「夢を見られるのも、それを叶えるために必死になれるのも、すごく奇跡的なことなんだよ。

あたしたちは、今の日本に生まれたから、好きなことに熱中することができるんだよ。


昔の人たちは、戦時中に生きた人たちは、自分の夢も希望も全部諦めなくちゃいけなかった。

好きなこともやりたいことも何一つできなくて、ただ生き抜くことだけ考えるしかなかったの。


そして、そんな悲しくてつらい状況を、全部、『仕方ないことだから』って受け入れてたの。


食べ物がないことも、着る服がないことも………大事な人の命が失われることさえも」




百合は苦しげに眉根を寄せた。



俺は何も言えず、ただ百合の言葉に耳を傾けていた。




「………だから、あたしたちは。

平和な国に、平和な時代に生まれたあたしたちは、仕方ないなんて言っちゃだめなんだよ。


全てを諦めるしかなかったあの人たちの代わりに、あたしたちは何ひとつ、諦めたりしちゃだめなんだよ………」