淡々と語られる百合の言葉。


でも、その中には、隠しようもない悲しみと苦しみが含まれていた。




「特攻隊員たちは、出撃の命令を受けて、家族と別れを惜しむ暇もなく飛び立って、南の海に散っていったの。


………信じられる?

出撃命令って、ほんの数日前に出されてたんだよ?


故郷に帰って家族にも愛する人にも会うことさえ出来ない。

家族のもとには遺書だけが届けられて、そのころにはもう、彼らはこの世にいないの。


そんなのって、ないよね………」




百合はゆっくりと視線を戻して、じっと俺を見つめる。


こんなにも真っ直ぐに人を見る瞳を、俺は知らない。



窓から射し込む陽の光を受けて、百合の瞳が薄いブラウンに透けていた。



その瞳が、ゆらゆらと揺れている。


心なしか、目の縁が淡い赤にほんのりと染まっている。



涙が滲んでいるのだ、と俺は気づいた。



その、瞬間。




「ーーー百合、泣くなよ」




俺は、ほとんど反射的に、百合の手を握っていた。