やった!

と叫び出してしまいそうだった。


でもそれは我慢して、俺はひとつ咳払いをする。



「………えーと、百合……ちゃん」



俺がそう言った瞬間、加納さんが「えっ」と声を上げる。



「ちょっ、それは恥ずいよ、ちゃん付けはやめて………」



頬をほんのりと紅く染めて、戸惑ったよう視線を泳がせている。


こんなに感情が表に出ている加納さんは初めてだ。



「じゃあ、百合さん?」



俺が呟くと、加納さんは目を丸くして俺を見た。


それから、口を手で押さえて、ぷっと噴き出す。




「……ふふ、なにそれ。

変なの、同級生なのに、さんって。

………いいよ、呼び捨てで」



「そ、そっか………」




百合。心の中で呼んでみる。


むず痒いような、変な感じだ。



べつに、女の子を下の名前で呼び捨てにするのは初めてじゃない。

幼稚園から一緒の、近所に住んでいた女の子たちは呼び捨てにしていたから。



………でも、なんでだろう?


加納さんを百合と呼ぶことは、ものすごく恥ずかしくて。