でも、それって、さみしい。


すごくいい名前なのに。


加納さん自身も気に入ってるって言ってるのに。


もったいない。



そう考えた途端、俺はもう居ても立ってもいられず、ほとんど反射的に口を開いていた。




「ーーー百合、って呼んでいい?」




言ってから、しまった、と思う。



いきなりすぎたし、

脈絡がなさすぎたし、

図々しすぎるし、


………もう、最悪だ………。




自己嫌悪に苛まれながら、俺は加納さんを見る。


案の定、きょとんとした顔をしていた。




「………ほんと、ごめん。

急に変なこと言って………」




かろうじて謝ると、加納さんはふるふると首を横に振った。




「ううん、別に変じゃないよ。

むしろ、えーと………」




そこで加納さんはいったん言葉を切り、目を泳がせた。


それから、少し気まずそうに俺を見た。




「………嬉しいよ。

下の名前で呼んでくれるのなんて、お母さんくらいだし………」