なんとなく正視できなくて、俺は視線を背けてしまう。


受付のおばさんが、「君も名前かいて」と名簿を差し出してきたので、俺は少しほっとしてペンを持った。



加納さんのきれいな文字の下に、自分の名前を書く。


俺は字が汚いから、加納さんに見られていると思うと、緊張で手が震えそうだった。




「りょうくん、だよね?

サッカー部の子が呼んでるの、聞いたことある」




俺の手許を覗き込んだ加納さんが、確かめるように呟いた。


俺はこくりと頷く。




「いい名前だね。宮原くんに似合ってる」



「そ、そう?」



「うん。なんていうか、爽やかで穏やかな感じ」




加納さんがにこりと笑った。


こんなふうに笑顔で話せる日がくるなんて、少し前までは思いもしなかった。



俺は嬉しくてにやけそうになるのを必死に堪えながら、その時ふと気がついた。



加納さんの下の名前を、学校で一度も聞いたことがない。


一番よく話している女子たちとも、名字で呼び合っているから。