目的地は、市立図書館。


そこで、戦争や特攻についての資料を探して、必要な情報をまとめて、発表用のプリントを作るのだ。



入口のところで、来館者名簿に名前を書くように言われた。


古い図書館なのだ。



俺は加納さんの隣に立って、何気なく手許を見る。


さらさらと書かれた名前を見て、思わず



「ゆり、って読むんだっけ?」



と訊ねてしまった。


加納さんのフルネームはクラスの名簿で見たことがあったけど、読み方までは書いていなかったので、ずっと気になっていたのだ。



俺の言葉に、加納さんはふいと顔を上げた。


そして、わずかに目を細める。



「うん。ユリの花の百合」


「いい名前だね」



無意識に言ってから、急激に恥ずかしくなる。


なに柄にもないこと言ってんだ、俺……。



加納さんは少し驚いたように目を丸くして、じっと俺を見つめている。


それから、ゆっくりと口角を上げた。




「………ありがと。

あたしも気にいってるんだ、この名前」




俺は、加納さんの笑顔にどきどきしながら、うん、と頷いた。