俺は驚いて何も返せなかった。



もし、日本が戦争をしていたら?


そんなこと、考えたこともなかったのだ。



だから、黙って加納さんの横顔を見つめていた。


しばらくぼんやりと向こうを眺めていた加納さんが、はっと我に返ったように俺を見た。




「………ごめん、変な話して。

びっくりしたよね」




そう言って、すこし恥ずかしそうな表情になる。


初めて加納さんの年相応の表情を見て、俺は嬉しくなった。




「変なんかじゃないよ」



「でも、こんな話したら、普通は笑うでしょ?」



「笑わないよ。だって、加納さんは俺の話を笑わないで聞いてくれたから」




きっぱりと答えると、加納さんはくすりと笑った。



こんなに近くで加納さんの笑顔を見たのは初めてだった。



いつもの凛とした顔もいいけど、笑った顔もすごく可愛い。



なんとなく正視できなくて、俺はふいと目を逸らした。



そのとき、練習再開の合図が聞こえて、俺は「じゃ、また」と言って、足早にグラウンドに戻った。