加納さんはグラウンドの方に目をやった。


でも、その目は、グラウンドでボールを蹴る中学生たちじゃなくて、もっと遠くの空の向こうを見ているような気がした。




「………夢が見れるのって―――将来の夢があるのって、すごく幸せなことだよね」




加納さんが呟く。



初めは、それはよく耳にする、『夢があるのは羨ましい、自分にはやりたいことが見つからないから』みたいな意味だと思った。


でも、続く言葉を聞いて、そういう浅い話じゃないんだ、と分かった。




「もしも日本が今みたいじゃなくて………例えば、戦争してる国だったら………。

子供たちは夢どころじゃない。

生き抜くのに必死で、将来の夢なんて考える暇さえないもん。


好きなスポーツも、勉強も、趣味も、何もかも思うようにはできなくて。

ただ、どうやって食べ物を手に入れるかとか、明日まで命を繋げるかとか、そういうことしか考えられないもん。


だから、当たり前みたいに、夢があるとかないとか言えるのって、本当に幸せなことだと思う」