「………ふー、あっちー……」




あっという間に夏休みになった。


毎日うだるような暑さだ。



部活の休憩時間、俺はグラウンドの片隅にある水道に行って顔を洗った。


冷たい水が気持ちいい。



スポーツタオルで顔を拭っていると、ふいに「宮原くん」と声が聞こえた。



この声は………と、胸がどきりと跳ねる。



振り向くと、思った通り、加納さんだった。



さらさらの髪が、そよ風に吹かれてふわりと揺れていた。


少し離れたところに立って、俺のほうを見ている。



口許が微かに緩んでいて、笑ってるんだ、と思った。




あの事件以来、俺は加納さんと少しずつ会話をするようになっていた。


といっても、おはよう、とか、暑いね、とか、じゃあね、とか、それくらいのものだけど。


それでも随分な進展だ。



しかも、今日は加納さんから話しかけてくれた。


俺は精一杯自然な感じの笑顔を浮かべて、さらりと挨拶を返す。




「おはよう、加納さん。

どうしたの、こんなところで」




「おはよ。

先生に呼ばれてるんだけど、ちょっと早く着いちゃったから………サッカー部の練習、見てた」