「…………ありがとう」




俯いた俺の耳に、加納さんの声が忍び込んできた。


俺は目を上げられないまま、こくりと頷く。




「手伝うよ」




不意に、すぐ横で声がした。


見ると、祐輔と聡太が濡れたタオルを持って立っている。



俺は少し身体をずらして、二人の入る隙間をつくった。




「………私も手伝う」




次は女子の声。


橋口さんたちが、浅井の机の周りにしゃがみこみ、飛び散った花瓶の欠片を拾い始めた。



それから、他の子たちも少しずつ集まってきて、手伝ってくれた。




なんて言えばいいのか分からないけど、とにかく嬉しくて、俺は思わず加納さんに目を向けた。



加納さんはゆったりと目を細め、口許をわずかに緩めている。



笑ってるんだ、と俺は思った。


微笑んでいる加納さんを初めて見た。



どくどくと脈打つ音が耳に響く。


俺はさっと目を逸らして作業に戻った。



周りのみんなも黙々と片付けに集中している。



遠くで、三島たちが不満気に言葉を交わしているのが聞こえたけど、誰も気にしていなかった。