ーーー加納さんは、誰かの死を、目の当たりにしたことがあるんだろう。


それも、きっと、とても大事な人を失ったんだろう。



加納さんの叫びは、たぶん皆にそう思わせるほど、悲痛で真摯なものだった。




加納さんは肩を震わせながら、浅井の机を拭いている。



俺は、みんなが硬直している中を自分の席に戻り、部活用のスポーツタオルを出して、水道で濡らしてきた。


そして、加納さんの横に立ち、浅井の机を拭き始めた。



加納さんがちらりと顔を上げ、俺を見て「ありがとう」と小さく呟く。



俺は頷き返し、机を拭く手に力を込めた。




そのとき、後ろのほうで、がたんと椅子の鳴る音がした。


振り向くと、立ち上がった三島が屈辱に歪んだ表情で加納さんを睨んでいる。



そして、唐突に叫んだ。




「……いい子ぶってんじゃねえぞ、加納!

エンコーしてるくせに!!」




ーーーその声を聞いた瞬間、俺の頭は真っ白になった。



気がついたときには俺は、三島のもとまで駆け寄り、すぐ側にあった机に両手を叩きつけていた。



バシッ、と鋭い音が鳴る。