いやな空気のまま、時間が過ぎていく。


何人ものクラスメイトが教室に入ってきて、花瓶の存在に気づき、そして目を逸らした。




「………あの机、誰のだっけ?」




花瓶のほうにちらりと視線を送って、ぼそぼそと祐輔に訊ねると、「浅井だよ」と教えてくれた。


名前を聞いて、顔が浮かぶ。

休み時間もいつも一人でライトノベルかなにかの本を読んでいる、少し太めの男子だ。


一度も声を聞いたことはない。



確かに標的にされやすそうだな、なんて思ってしまった。



俺は居心地の悪さに吐き気を感じながらも、やっぱり何も行動を起こせずに硬直していた。



浅井が来たら、そしてあれを見たら、どんな気持ちになるだろう?


ショックを受けた顔をするのを見て、あいつらは爆笑するんだろうか?



………そう思ったら、居ても立ってもいられない気分になった。



―――だめだ。


やっぱり、このまま見過ごしちゃだめだ。


いくら転校生だからって、まだクラスに馴染めてないからって、放っておけない。




そう思って立ち上がろうとした、そのとき。




「…………なに、これ」




掠れた声の呟きが聞こえて、俺ははっと目を上げた。



声が聞こえてきたほうを見ると、


いま登校してきた加納さんだった。



カバンを持ったまま、花瓶のほうを凝視している。