「つうか、加納ってさ………」



 佑輔が急に声を落とし、噂話をするようにひそひそと言い始めた。



「ちょっと、変な噂、あんだよ」



 佑輔の言葉に、聡太も頷く。


 その様子から、それは、このクラスの誰もが知っているような、広く流れている噂なんだろう、と俺は思った。


 でも、聞きたくなかった。


 だから、俺はすぐに興味を失ったふりをして、机の中から教科書を取り出し、整理しはじめたんだけど。



 俺の意に反して、佑輔の話は止まなかった。



「なんかさ、加納って、すげえ不良っつうか、ヤンキーらしくてさ。

エンコーとかもしちゃってるらしいぞ」



「ん? エンコーって………」



 なに、と訊き返しかけて、気づいた。


 もしかして、援助交際、のことか?



 俺は、ため息が出そうなのを必死で抑えた。


 予想通り、聞きたくもない話だ。