そのとき、一陣の風が吹いた。




「………でも、なんか、生ぐさい……」




百合が少し眉をひそめて言う。



俺は「これが海のにおいだよ」と教えてあげた。




「え……海ってこんなにくさいの?」



「うん、まぁ、くさいね」



「あははっ、そっか、くさいんだ。知らなかった……」




明るく笑う百合の顔が嬉しくて、俺は思わず百合の手首をつかんでしまった。



でも、百合が嫌がらなかったので、「行こう」と言って歩き出す。




「あ、においが濃くなってきた」



「うん。10分も歩けば着くよ」




手首を握るのも変かな、と思ったけど、

いきなり手をつなぐのもアレだし、


かと言って、せっかくの機会だから手を離すのももったいない。




俺は気まずくて百合を直視できないまま、海へと向かう道を下っていった。