「…………着いたよ。降りよう」



「うん………」




俺が立ち上がると、百合も鞄を持って腰を上げた。




駅の改札を出ると、たった一ヶ月ぶりなのに、ずいぶんと懐かしい光景が広がっていた。




………久しぶりだ。


かぎなれた海辺の街の空気を、胸いっぱいに吸いこんで、俺はぐるりとあたりを見渡した。




「田舎だね」




百合がそんなことを言う。



お世辞もへったくれもない言葉がおかしくて、俺はぷっと噴き出した。




「うん、田舎だよ。

コンビニはむちゃくちゃ少ないし、ショッピングモールも車で一時間以上かかるし」



「ふぅん………でも、のんびりしてていい街だね」




おばちゃんたちがゆっくりと行き交っている駅前の古くさい商店街に目を向け、百合が微笑んだ。