「あの、き、如月さんっ」
「ひょわぁぁ!?」
ずいっと目の前に顔が現れて、あたしは思わず飛び上がった。
「あ、あり、有明くん……?」
どうやらあたしを呼んでいたのは、隣の席の有明陽だったらしい。
この距離で気付けないとは……どんだけ存在感ないんだ、君は。
心の中で失礼なことを思っていると、有明陽は、自慢の黒縁メガネを押し上げて言った。
「あのですね、実は如月さんに折り入って頼みたいことがございまして……」
クラスメイトに使わないような敬語を並べる有明陽。
ていうか、黒縁メガネって、あたしの中ではかっこいいイメージのアイテムだと思うんだけど、有明陽がかけてるとダサく見えて仕方がない。
またまた失礼なことを思いながらぼんやりしていると、返答のないあたしに気づいたのか、有明陽がまた顔を覗き込んできた。
「如月さん?聞いていらっしゃいますか?」
「うおぉっ!」
それに驚き、数歩後退りして、あたしはやっと有明陽の話に耳を傾けた。
「き、聞いてますとも。頼み事って何?」
あたしが聞き返すと、有明陽は、どこも遊ばせていないストレートな黒髪の頭を、少し恥ずかしそうにもさもさと掻き回す。
そして、わけのわからんことを言い出した。