翌日。
いつもより早起きができたあたしは、足取り軽くリビングへと降りると、言葉を失った。
「……っ、お、お母さん」
「あら、早いのね、朔乃」
しばらく帰ってこないと思っていたはずの母が、そこにいた。
「何で……」
「忘れ物したのよ。またすぐに出かけるわ。旅行に行くからしばらく帰らないけど、昨日渡したお金で1週間は余裕で足りるわよね」
1週間も家を空けるのか。
たった一人、娘を残して。どこぞの馬の骨とも知れず男のところに行くのか。
「じゃあ、いってくるわね。いい子にしてるのよ」
40代も半ばに差し掛かっているというのに、年齢にしてはやたらと若い格好をしている母。
綺麗な姿でいるのは、あたしのためではなくて、男のため。
何がいい子にしてろよ。
偉そうなこと言わないでよ。
パタンと玄関のドアが閉まる。
それをぼんやりと耳にしたあと、あたしは気が狂ったかのように自分の部屋へと駆け戻り、ベッドの上の携帯を手に取った。