「あ、あのっ!す、好きな食べ物は?」
あわあわと落ち着かない両手。
「ぼ、僕は納豆が好きなんです。納豆は栄養がたくさんあって、白飯の上に乗せればなお美味しさが引き立って……」
ふわふわとさまよう視線。
あたしは、そんな目の前の陽に、大きくため息をついた。
「そんなんじゃダメだよ、陽。ていうか、会話がお見合いみたいになってんだけど」
「ええっ!? だ、ダメですか……?」
あたしからバッサリとダメ出しをくらった陽は、どうすればよいものかと頭を抱えた。
憂鬱とは思っても、時間が経てば放課後はやってくる。
あたしは、例により皆がいなくなったあとの教室で、陽に恋愛授業をしていた。
今朝、陽が言っていた“天川さんの前だと緊張してうまく話せない”という問題点を解決すべく、練習をしているところなのである。
……でも、テーマも何もなしに、「じゃあ、あたしを天川さんだと思って何か話しかけてみて」と、お試しでも言ってみたのが間違いだった。