あたしは逃げるばかりで言えなかったことを、陽が代わりに言ってくれた。


お母さんは、やっぱりあたしの受験の日を知らなかったのか口を手で押さえて愕然としている。


「本当なの?朔乃……。ごめんなさい、お母さん知らなくて」


「……」


“ごめんなさい”。
まさかこの言葉がお母さんから出てくるとは思わなくて、あたしは少し戸惑ってしまった。


「朔乃さんは、志望校に合格する為にこの1年すごく頑張ってきました。だから、朔乃さんの大事な日に、悩みを増やすようなことをやめて欲しくて、今日こうしてお話させてもらいました」


陽……。


陽の背中で、あたしは泣きそうになるのを必死でこらえた。


こんなことを、わざわざ家まで来てお母さんに言ってもらえるとは思ってもいなくて。


その姿があまりにも頼もしくて、ますます好きになっていく。


地味でいつも教室の隅にいたようなかつての陽は、一体どこへ行ったんだろう。