「朔乃先生!朔乃先生、待ってください!」
ホームへ続く階段を降りきったところで、陽があたしに追いつき、腕を掴んで引き止めた。
「……何」
「すみません、さっき笑ってしまって」
「……いいよ、別に」
恥ずかしかったけど、自分の不注意だし、笑われたことに対しては怒ってないし、謝ってくれなくてもいい。
それなのに、こんなにもむしゃくしゃするのは、海星に会ったせいだ。
あたしのことなんかほったらかしで、あの男とずっと遊んでいたお母さん。
そんな人のことをかばうなんて、海星はよっぽどお母さんに惚れ込んでいるらしい。
「むかつく。お母さんもあの男も」
「朔乃先生……」
「ごめん。帰ろっか」
ちょうどよくホームにやってきた電車。
あたしは、掴まれた腕をそのまま引っ張って陽と共にそれに乗り込む。
デートの予行演習をした時も、こんなふうに一緒に電車に乗ったっけな。
なんて思うけど、今のあたしにはその時のことを懐かしむ余裕なんてなかった。