さっき見た時は笑っていたけど、今は顔が強ばっている。やっぱり、いくら“人”の字を書いても緊張するよね。


「いちについて……」


陽と、他の選手たちが、両手をつき、前転に入る直前のポーズを構える。


「よーい……」


頑張って、陽……!


――パンッ!


ピストルの短い音が響いて、レースが今始まった。


陽は、他の人達よりワンテンポ出遅れてしまったけど、なんとか前転。


そのあとは、すぐに立ち上がり、走っていく。


前にいた選手が、借り物が書かれた紙が入っている箱に手をいれたとほぼ同時に、陽も到着した。


他の選手は、もうすでに借り物を探しているようで、一度コースをはずれ、散り散りになっていく。


そんな中、紙を手に取った陽だけは、その場に立ち尽くしたまま動かない。


次第に、あたしたちのクラスや、他のクラスの人達までざわつき始めた。