泣けばいいのに。俺のために。泣けばいいのに。
そんなふうに思う俺は、女々しくて自分勝手な、かっこ悪いやつだ。
「……ごめん。燿くん、ごめんね」
「なんで謝んの」
「だって燿くん、怒ってる」
「怒ってるよ。当たり前だろ」
「ごめん……」
ごめん、なんて。そんなのいちばん欲しくない言葉だ。
涙をいっぱい溜めているくせに、彼女の瞳がそれをこぼすことはなくて。本当は、日和さんには笑っていてほしいはずなのに、どうしても責めるように見下ろしてしまう。
渇いた北風がしつこく吹くもんだから、指先が冷えて、握っている彼女の手首まで冷やした。
「……ごめん」
「燿くん……」
そっと手が離れた。正確には俺が離したんだけど。
そしたら彼女の大きな目がうかがうように俺の顔を覗き込んできたので、慌てて言葉を探した。
「寒いよな。暗くなってきたし、俺ももう帰るわ」
「うん」
「……じゃ、また。きょう、試合見に来てくれてほんとに嬉しかった。ありがと」
ううん、おやすみ、と。日和さんのくちびるがそれだけを言い終わる前に、背を向けた。
振られたも同然だ。もう返事を聞く必要すらねーじゃん、こんなの。
さっきまですげえむかついてたのに、いまはすうっとその熱が引いて、ただとても悲しくてたまらない。うわ、女々しいな、俺。やべえ。