正直、もう引っ込みがつかなかった。11月の、もうずいぶん冷え切った風が俺たちのあいだを抜けて、日和さんのやわらかい髪を舞い上げた。
「彼氏と別れるなら、俺と付き合ってほしい」
「ダメだよ。わたしまだ、そうくんのこと好きなんだよ」
「それでもいいと思ってる。いますぐ俺を好きになれってことじゃねえんだ」
「燿くん……」
「いっぱい笑顔にする。大切にする。日和さんを好きな気持ちなら、ぜってー彼氏に負けねえ自信あるもん、俺」
どんだけ必死なんだよって、自分でも笑えた。まさか、こんな薄ら恥ずかしい台詞がぽんぽん口からでてくるなんて。ちょっとびびる。
いままで何人かの女と付き合ってきたけれど、全部向こうからの告白だったし。好きだとか、そういうことはあまり言わなかったと思う。言う必要もなかった。
それがどうだ。そんな俺もいまではこのザマだ。
「日和さん。俺と付き合ってよ」
目の前の大きな瞳が、俺を見上げて揺れた。
「……燿くんは、晶の弟だから。どうしても弟みたいにしか見れないよ」
ほんとにさ、勘弁してほしい。
「いいかげんにしろよ」
「ひかるく……」
「いいかげん、晶抜きで、ちゃんと俺のこと見ろよ」
晶の弟だから、とか。ふざけんな。そんなの理由になってねえじゃん。そんな理由で振られて、俺が納得するとでも思ってんのかな。
日和さんは泣きそうだった。俺も結構やばかった。
晶の顔を思い浮かべて、頭のなかで、あの不機嫌そうな顔面にパンチしてやった。