――俺だったら、きっと、もっと。

そんなふうに考えると、どうしてももやもやして、苛々して、上手くしゃべることができなかった。日和さんもそれ以上はなにも言わなかった。


俺はなにに腹を立てているんだろう。

日和さんにこんな顔をさせる、彼女の彼氏に?
俺の前で、平気でこんな顔をしてみせる、日和さんに?

それとも。5年も片想いしているくせに振り向かせることができない、情けない自分自身に?


重苦しい空気のまま、気付いたら日和さんの家に到着していた。

ダメだな。こんなだから晶にガキだって言われるんだ。こんなだから、好きなひとにすらいつまでも弟扱いされたままなんだよ。

分かってんだけどな。


「燿くん、送ってくれてありがとう。それからお疲れさま。次もがんばってね」


帰り際の女の子の台詞。そのテンプレートを、彼女は完璧な笑顔でこぼして、そっと俺から離れる。

白い手首を掴んだのは反射的だった。それは見た目よりもずっと細くて、背中がぞくっとした。


「――なあ、日和さん。俺じゃダメなのかよ」


ずっと俺を見上げていた大きな瞳が逃げるように逸らされる。そして、わずか一瞬で、彼女はまた年上っぽい苦笑をこぼしながら、俺を見上げた。

なんだか無性に悔しかったし、腹が立った。


「もー。返事は大会が終わってからじゃないの?」

「そうだけど! そうだけど……でも」


彼女を困らせたかったはずなのに、おかしいな。まんまと俺が困らされてんじゃねーか。