ふと、晶はどうして先に帰ったんだろうと疑問に思った。いまさらだけど。
もしかしたらあいつなりに気を利かせて、日和さんと俺をふたりきりにしてくれたのかも。いや、それはないか。あいつにそんな発想力があるとは思えない。
……それに、泣いてたしな。
びっくりした。晶の泣き顔なんて見たのはいつぶりだろうって。いや、もはや記憶にすらないんじゃねえの。
改めて思い返すと、晶って、泣かない女だ。滅多にってレベルじゃない。本当に泣かない。
どんなひどい怪我をしても、誰に叱られても、注射のときも。インフルエンザで高熱を出したときだって、あいつは絶対に泣かなかった。いまでもそうだ。
だから健悟さんが追いかけてくれてよかったのかもしれない。健悟さんはなにも言わなかったけど、きっとあいつを家まで送ってくれているに違いない。
「水谷先輩も言ってたけど、次勝ったら全国大会なんだよね」
「うん、そう。俺らみてーな弱小校がここまで勝ち進んでくるなんて、ぜってー誰も想像してなかったと思う」
「そっかー! 燿くんはすごいなあ」
絶対に行こうと決めていたウィンターカップが、もう目の前に迫っている。あとひとつで掴めるところにある。
夢みたいだけど、夢じゃないんだ。
大河やチームメイトたちと一緒だったからここまで来れた。本当はいますぐにでも感謝したいところだけど、まだ全国が決まったわけじゃないから、それはおあずけだ。
「……来週、決勝だからさ。また見に来て」
「うん、もちろんだよ。晶と一緒に見に行くね」
そう言って、彼女はへらりと笑う。もしかして忘れてんのかな、約束。
大会が終わったら告白の返事をしてほしいという、俺が一方的にしたあれだ。
もちろん来週で負けるつもりなんて微塵もねーけど。ただ、もしかしたら告白をうやむやにされるんじゃないかって気もしていて、ちょっと怖い。